安心・安全なメタバースの実現に関する研究会

総務省 安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書 2025(案)発表〜メタバースにおける本人確認とプライバシーとアカウンタビリティについて(パブコメは8/27まで)

追記: 8月4日から27日までパブコメがかかっています。ご意見のある方は、https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000126.html からどうそ。提出様式などは、e-gov のこのページにあります。

本日、令和7年7月23日(水)15:00-17:00に、総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会(第16回)」が行われ、報告書2025(案)が発表されました。日経新聞には昨日発表されると出ていたニュースではありますが…。

内容は、記事の末にNotebookLMにまとめてもらって書くとして、このブログの読者の興味としてはやはり本人確認周りではないですかね。X(旧Twitter)でもポストしたのですが、本人確認まわりはこんなところです。

●空間内の行動主体について、その責任を負う者の本人確認が必要とされる場面においては、 本人確認済である旨がその確認手法も含め判別できるようにすること。
●登録時の本人確認システムを含む必要な措置の導入・強化に向けた検討を行うこと。

わたしの本『デジタルアイデンティティ』にも書きましたが、これは責任あるデジタル存在に関わるものです。一方では、各メタバース事業者毎にマイナンバーカードで本人確認しろと言われると気持ち悪いなぁ(情報が分散するのでリスクが上がる)というのもありまして、eIDAS2でドイツで昨年あたり検討されていたPsuedonym Provider とか、半匿名認証プロバイダーのようなものを想定して、それを制度に取り込むと良いなと思っています。て、言ってもなんのことかわかりませんよね。要は運用を含めたセキュリティ基準がしっかりしている「半匿名」プロバイダー(対事業者に対しては、ユーザーは匿名ないしは仮名になる)が、マイナンバーカードとかで本人確認をしたうえで、仮名のVerifiable Credential/Digital Credentialを発行して、それを使って、メタバースとかそのワールドに登録する形です。裁判所の令状があれば、捜査機関がそこに行って、本人まで遡ることができるようにする仕組みです。現早稲田大学教授でMyData Japan の副理事長の佐古先生がエディタをやっていた『ISO/IEC 29191 情報技術-セキュリティ技術-情報セキュリティマネジメントシステム-部分匿名,部分リンク不能認証の要求事項』 にその要求事項が書いてあります。(なお、報告書案の中にはISOはITU-Tとの関係で一回出てくるだけです。総務省だから仕方ないといえば仕方ないのですが…。)

わたしの本に書いた責任あるデジタル存在の原則は以下のとおりです。

原則1.責任あるデジタル存在(Accountable Digital Being) 誰もが自身の行動に責任を問われるデジタル存在を確立・再確立可能であるべきです。これは、言論や思想の自由を守るために仮名や匿名での行動も許容しつつ、事件発生時には適切な権限を与えられた機関が匿名性を解除できるようにする「半匿名(Partially Anonymous)」な状態を目指すものです。これにより、不法行為を行った者が説明責任(Accountability)を求められ、社会がそれを認識することで、人々が自身の行動の社会的な許容性を考えるようになります。また、この原則が一般的になると、それを持たない者は社会から排除される可能性があるため、望むならいつでも確立・再確立できる必要があります.
(出所)崎村夏彦. 2021. デジタルアイデンティティ. 日経BP社

検討が良い方向に向かうことを祈っています。

以下、NotebookLMによる報告書案概要です。

報告書案概要

1. はじめに:メタバースの定義と研究対象の拡大

総務省は、Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会を経て、2023年10月より「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」を開催しています。当初は個人間のコミュニケーション・エンターテインメントを主目的とするVRメタバースが主な議論対象でしたが、2024年12月以降、議論の対象はAR・MRメタバースを含む多様な目的のメタバース全般へと拡大されました。

本報告書における「メタバース」の定義は以下の4つの要素を備えた仮想空間とされます。

  • ⅰ 利用目的に応じた臨場感・再現性があること(デジタルツインと同様に物理空間を再現する場合もあれば、簡略化された物理空間のモデルを構築する場合、物理法則も含め異なる世界を構築する場合、物理空間そのものに仮想的に情報を付加・融合させる場合もある)」
  • ⅱ 自己投射性・没入感があること
  • ⅲ (多くの場合リアルタイムに)インタラクティブであること
  • ⅳ 誰でもが仮想空間に参加できること(オープン性)

さらに、相互運用性、永続性、物理空間と同等の経済活動が可能であることなども、多くのメタバースが備える要素として挙げられています。

本報告書は、「メタバースの原則(第1.0版)」の改定を見据え、市場、技術、政策・制度の3側面から国内外の動向を把握し、物理空間と仮想空間が相互に作用したり、融合するケースが社会に与える影響について議論した結果をまとめたものです。

2. メタバースをめぐる市場動向

メタバース市場は、現在「幻滅期」にあるとされていますが、社会課題解決のインフラとして着実に市場が形成されており、今後普及が進むと見られています。

2.1. 市場規模の推移と予測

  • 世界の市場規模: 2024年時点で744億ドルですが、2030年には5,078億ドルまで拡大すると予測されています。このうち、メタバース内でのeコマースが最も大きな割合を占め、次いでゲーム、ヘルス&フィットネスが続きます。
  • 国内市場規模: 株式会社矢野経済研究所によると、2023年度は前年度比35.3%増の1,863億円と推計されており、2024年度は2,750億円まで成長する見込みです。
  • 総務省の推計:
    • 個人向け: 2025年時点では約800億円、2030年には約4,100億円まで拡大すると推計されています。特に「観光」分野は、VRメタバースとAR・MRメタバースの両方で6倍以上の市場規模に拡大すると見られています。
    • 企業(業務利用)向け: 2025年時点では約8,300億円、2030年には約1兆6,000億円まで拡大すると推計されています。「土木・建設現場」「職場教育」「オフィス・ワークプレイス」分野の拡大率が大きいと予測されます。
    • 合計: 2025年時点では約9,100億円、2030年には約2兆円まで拡大すると推計されています。企業向け市場の方が規模は大きいですが、個人向けの市場拡大率の方が高いと分析されています。

2.2. デバイスの進化

  • VRデバイス: 超高画質・超軽量な新型機の開発が進み、より快適な利用が可能になると期待されています。
  • AR・MRデバイス: グラス型(眼鏡型)デバイスの新型機が続々と登場しており、日常生活での利用が手軽になりつつあります。AI搭載の高性能グラス型デバイスの開発も進んでおり、AIが視界の物体を認識・理解し、情報表示や行動提案を行う新たな体験の可能性が注目されています。

2.3. ユーザー動向の多様化

  • 従来のメタバースユーザーは10代後半から20代、男性が中心と考えられてきましたが、今後は多様化、若年化が進む可能性があります。
  • 人気ライブ配信者によるVRChat体験動画の反響により、GoogleトレンドにおけるVRChatの日本での人気度が2023年比で5倍程度に増加しました。
  • Robloxのようにユーザーの40%弱が13歳以下の若年層であるゲームプラットフォームのDAUが増加しており、特に日本を含むアジア太平洋地域では約40%の増加が見られます。

2.4. ステークホルダーの整理と課題

メタバースをめぐるステークホルダーは、ビジネス・活動レイヤー、空間レイヤー、プラットフォームレイヤー、ネットワークレイヤー、ハードウェアレイヤー、基盤技術レイヤーに整理されています。ユーザー属性・役割の多様化を踏まえ、ステークホルダー間をつなぐ主体の必要性が指摘されています。

3. メタバースにおけるコミュニティ・情報流通の課題と対応

メタバース独自のコミュニティと情報流通には様々な特徴がありますが、それに伴い以下の16の課題が指摘されています。

主な課題の例:

  • コンテンツの多様な種類・形態:個々のコンテンツの権利や責任の所在が不明確。
  • 空間内の自己存在感:アバターやキャラクターを介した自己投射・没入によるデータ流出やセキュリティ侵害の深刻化。
  • ユーザー行動:AIやアルゴリズムによる自律的制御がもたらす違法行為や不当行為のリスク。
  • サービス利用の拡大:ユーザー層の拡大や応用分野の拡大に伴う、不文律や倫理観の共有の難しさ。
  • AR・MRメタバース固有の特徴:物理空間への情報付加に伴う情報・データ流通の課題、プライバシー侵害のリスク。

研究会での議論と対応案:

  1. 高性能化するAIアバターと人間アバターの区別: AIアバターと人間が動かすアバターの区別をどのように行うべきか。ユーザーの自発的な行動で真正性を担保する仕組みや、AIによる行動を一定程度制限するアプローチなどが検討されています。
  2. 多様化するユーザー属性と倫理観の共有: 不文律や倫理観の共有をどのように行っていくべきか。メタバース関連サービス提供者が、提供するワールドの性質や文脈をユーザーに説明し、理解を促すことが期待されます。
  3. マルチモーダルな情報・データの取得・分析・活用: 生体情報を含むデータが流通する中で、その取り扱いをどうすべきか。ユーザーへの透明性の確保、データ取得前の同意取得の徹底、デバイスメーカーによる技術的措置などが議論されています。
  4. 複雑化する契約・取引における責任の扱い: UGCクリエイターとユーザー間のトラブル対応など、責任の所在を明確にすることが求められます。トラブル防止の仕組み構築や、通報窓口の設置、対応方針の明確化が期待されます。
  5. 複雑化するコンテンツや活動の権利の扱い: UGC創作時における他者の権利侵害の防止や、プライバシーへの配慮が課題です。利用規約やガイドラインでの考え方の明示、技術的な措置によるデータ取得制限などが議論されています。

4. コンテンツの創作・流通の市場動向

メタバース上で流通するコンテンツは、ワールド、NPC、アバター、アバターアクセサリー、オブジェクト、エフェクト、コンテンツ(狭義)、ギフト、イベントなどに類型化できます。

クリエイターエコノミーの現状と課題:

  • BOOTHの3Dモデルカテゴリの取扱高が急成長しており、国内のメタバースクリエイターエコノミーが急成長していることが示されています。
  • これに伴い、いわゆる「古参勢」とは異なる背景を持つユーザーの流入が進み、メタバース内で形成されてきた「暗黙の了解」が無効化され、トラブルが顕在化する可能性が高まっています。
  • クリエイターの「事業者性」の立証が困難であることや、クリエイターの匿名性擁護と消費者保護という相反する論点が存在します。
  • 解決策として、「中間事業者」の活用が想定されていますが、人気のクリエイター以外には適用が難しいという問題があります。プラットフォーマーによる販売代行の可能性も議論されています。

5. 社会課題解決に資するメタバース導入の留意点

新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、企業や自治体でのメタバース導入が進み、社会課題解決に資するユースケースが増加しました。

JR西日本の「バーチャル・ステーション」事業事例:

  • コロナ禍で運輸事業が影響を受ける中、新たな収益の柱としてバーチャル・ステーション事業を立ち上げ、2022年8月の初開業から継続しています。
  • リアルとバーチャルの「駅」を有機的に連携させ、地域活性化や誰もが活躍できる社会の実現に貢献しています。
  • 事業継続の留意点:
  1. 自社でオーソライズされている事業創出手法に則る: 経営課題に即した視点で事業を提案し、経営陣に理解されやすい内容とすること。
  2. 事業の“適社性”の確認・追及を徹底する: 自社のアセット・ケイパビリティが活きることを証明し、自社でなければ実現し得ない独自性を追求すること。
  3. 既存メタバースプラットフォーマーとの協業方式を採用する: 投資リスクを抑制し、既存ユーザー層を活用することでゼロからのユーザー集めを不要にすること。

大阪・関西万博におけるメタバースの活用:

  • 2025年開催の大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、メタバースを先端技術と組み合わせたXRコンテンツが多数展示されています。
  • 総務省の「Beyond 5G readyショーケース」では、VRゴーグルを使った月面ロボットの遠隔操作体験が可能です。
  • 「バーチャル万博~空飛ぶ夢洲~」が設定され、時間や場所の制約を超えてパビリオン巡りの機会を提供しています。
  • 大阪大学の石黒浩教授がプロデュースするパビリオン「いのちの未来」では、人間とアンドロイドロボットが共存する未来の生活空間が展示されており、人間とアバターの関係性の変化に注目が集まっています。

6. メタバースをめぐる技術動向

メタバースの利用には高度な技術が必要であり、ハプティクス(力触覚を人工的に生成する技術)とAIの活用動向が特に注目されています。

6.1. ハプティクスの活用動向

  • 現状: ゲーム、業務用トレーニング、医療などの専門分野での利用が見られますが、専用デバイスの必要性、感覚の種類・態様・身体部位の限定性、再現精度の不足などから利用事例はまだ少ないです。
  • 効果・メリット: 臨場感・没入感の向上、動作・行為の感覚の再現・共有。
  • 課題:
    • VR酔い: 感覚モダリティ間の不整合(特に視覚と体性感覚)による乗り物酔いのような症状。原因は人間の認知機構、視覚情報と体性感覚情報の精度差、表示タイミングのずれ、コンテンツの動きの激しさなど。
    • 感覚再現の精度・正確性の不足: 業務トレーニングなどでの本格利用には、実際と同等の刺激の強さや精度、態様、品質の正確性が必要。
  • 対応方針: 人間の認知機構の解明、「VR酔い」の回避・軽減に向けたマルチステークホルダーでの対策、高精細・高精度で汎用的なハプティックデバイスの研究開発。

6.2. AIの活用動向

  • 活用例: ワールドやアバターの自動生成、パーソナライゼーション、多言語間コミュニケーションのサポート、ユーザーの不正行為検出・防止、対話型カスタマーサービス、広告宣伝など多岐にわたります。
  • 課題:
    • パーソナルデータ漏えい・侵害リスクの深刻化: HMDやハプティックデバイスにより取得されるユーザーの生理、心理、行動に関するマルチモーダルなデータが、AI分析により漏えい・侵害のリスクを増大させる可能性。
    • ユーザー誘導リスクの深刻化: 分析されたデータが、ハプティクスやAIにより臨場感・没入感を増した環境でユーザーにインプットされることで、人間やAIの恣意に基づく誘導リスクが高まる可能性。
    • 相互運用性やガバナンスに関するマルチステークホルダー議論の不足: サードパーティが開発・チューニングしたAIのメタバース上での活用における相互運用性やガバナンスのあり方について、様々なステークホルダーによる議論が必要。
  • 対応方針:
    • マルチモーダルなパーソナルデータの適切な取り扱いに関する調査・研究。
    • 没入環境でのAIアウトプットがユーザーに与える影響に関する具体的・実証的な調査・研究。
    • 相互運用性やガバナンスに関するマルチステークホルダーでの議論の場を設ける。

Dynabook株式会社によるAR・MRメタバースとAIの融合事例:

  • グラス型AR・MRデバイスを着用することで、物理空間を見ながらAI支援を受け、会話の文字起こし・翻訳、物体認識、資料要約などが可能になります。
  • 産業向けではDX高度化、人手不足解消、スキル向上に貢献しますが、一般ユーザー向けでは情報の信憑性、AI依存症、不適切なコンテンツ、社会的受容性、物理的安全性、プライバシー(データ取得・監視)などの課題が懸念されます。
  • 構成員からは、デバイスを介したデータ取得が、ユーザーだけでなく周囲の人物にも影響を与えるリスクや、支配的なプラットフォーマーによるデータ独占への懸念が指摘されました。また、AR・MRメタバースにおける「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」が物理空間に持ち込まれる可能性も指摘されています。

6.3. データ取得・活用状況

  • Clusterの事例:
    • メタバースプラットフォーム「Cluster」では、「アクションイベントログ」(ユーザー行動履歴)と「3D空間の同期通信ログ」(アバター位置、姿勢、ボイスチャット音声、アイテム位置など)の2種類のデータを取得・活用しています。
    • 取得データはサービスの開発・改善、迷惑行為の検出・防止、クリエイターへの情報提供に役立てられています。
    • ユーザー自身の年齢(未成年者保護のため)と身長(身体の動きの適切なトラッキングのため)も取得されています。
  • LUIDA(大規模VR実験プラットフォーム):
    • Clusterを活用したオンライン実験プラットフォーム。研究者が実験ワールドを設計し、ユーザーは実験に参加・同意の上、データ収集やアンケート回答を行います。
    • データ活用の指針: 匿名化されたID管理、利用目的の明示と同意取得の徹底、自己選択的な参加・離脱の仕組み、データ削除要請への対応。
    • 課題: 個人情報保護法における利用目的の具体的な説明と実験目的との衝突、オンラインでの生体情報取得におけるプライバシー懸念、プラットフォーマーの責任の所在。
    • AR・MRデバイスにおけるデータ取得の課題: 現実空間とリンクした情報であるため、より精緻な取り扱いが必要。高密度なデータ取得、センシティブな個人データの行動予測・パーソナライズ、ハイパーパーソナライズ広告による操作的・倫理的懸念。
    • 対策として、録画中であることを示すLEDランプ点灯などのハードウェア側の制約が検討されていますが、「現実空間もデータを取得される状況にある」という社会共通認識の形成も提言されています。

6.4. メタバース利用が人々の身体・感情・行動等に与える影響

  • ポジティブな影響:
    • メンタルヘルスデジタル療法: 株式会社BiPSEEは、VRメタバースを用いたうつ病治療アプリや、自閉スペクトラム症(ASD)傾向のある小児向けコミュニケーション支援を提供しています。没入体験による注意機能へのアプローチや、HMDによる心身情報(生体データ)へのアクセスが強みとされています。
    • 米国ではリハビリや慢性疼痛軽減のためのVRメタバースが医療機器として承認されています。
  • 課題:
    • 医療現場における治療法の意義や安全性、リスクに関する認知・理解の不足。
    • 通信環境(遅延)の課題。
    • 依存や現実世界からの逃避のリスク。
    • 患者のセンシティブな情報が多様なステークホルダー間で複雑化するデータの取り扱いと責任の所在。

7. メタバースをめぐる国内外の政策・制度

国内外でメタバースに関する政策・制度の検討が進められています。

7.1. 日本政府の動向

  • 総務省:
    • シンポジウム「安心・安全なメタバースの利活用促進を考える」: 2025年3月開催。ユーザーの安心・安全確保に向けた取り組み、ビジネス導入の要点、導入効果などを議論。XRデバイスから取得可能な生体情報を含むマルチモーダルかつ機微なデータの取り扱いの重要性が強調されました。
    • 「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」の作成: メタバース導入を検討する企業や自治体向けに、成功事例のヒアリング結果を基に留意点などをフェーズ別に整理。
    • 「XRデバイスを安全で快適に利用できる環境整備に資する技術の実証事業」: XRデバイス使用に伴う「VR酔い」や身体的負担などのリスクを最小限に抑え、メリットを最大限に享受できる望ましい利用のあり方を検討するため、国立研究開発法人情報通信研究機構と京都大学が採択され実証事業を実施予定。
  • 経済産業省:
    • 日本産業標準調査会(JISC): メタバースの協調領域における標準化に向けたアクションプランの検討と実行を推進。
    • 「戦略的国際標準化加速事業」: 「メタバース等のサイバーフィジカルコンテンツにおけるアバター設定に関する国際標準化」と「メタバースの用語に関する国際標準化動向の調査」を実施予定。
  • 特許庁:
    • 産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会: 仮想空間におけるビジネスやデザイン創作の実態を踏まえ、意匠制度の見直しを検討。仮想物品等の形状等を表した画像を保護対象とする方向性が示されています。
  • 内閣府:
    • 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」: サイバー空間からフィジカル空間への価値還流を目指し、技術開発、標準化・ルール整備、ユースケース実証、人材育成などを推進。ELSI(倫理的・法的・社会的課題)対策や社会受容性の醸成も含まれます。
    • 「インターバース社会実装推進メタコンソーシアム」の設立: インターバース産業の発展と世界市場牽引を目指し、産学官連携での意見交換や研究開発・成果利用を促進。

7.2. 諸外国・地域の動向

  • 米国:
    • メタバースに特化した法整備は確認されていませんが、没入型技術に関する調査や法案の動きが見られます。
    • 会計検査院(GAO): 連邦政府機関における没入型技術の利用動向を調査し、サイバーセキュリティやプライバシー遵守、運用コストの高さなどを課題として指摘。
    • 「米国没入型技術におけるリーダーシップ法案」: XR技術の国家戦略策定を目的とした法案が提出。
    • NIST(米国立標準技術研究所): 没入型技術のサイバーセキュリティとプライバシー基準に関する現状調査を実施。既存のリスク管理ガイドラインやツールが活用されることが期待されています。
  • EU:
    • 欧州委員会「Web4.0と仮想空間をリードするためのEU戦略」: 人材・スキル、ビジネス、政府、ガバナンスの4観点から10のアクションを提示。
    • EU競争総局: 「生成AIと仮想空間の競争に関する政策文書」を発表し、独占禁止法やDMAを活用して市場の公正性を確保する姿勢を示しています。
    • 「Web4.0と仮想空間のガバナンスに関するマルチステークホルダー会合」: グローバル・ガバナンス原則の議論を喚起。日本の「メタバースの原則」も国際的な評価を受けました。
    • 「仮想空間ツールボックス(Virtual Worlds Toolbox)」: EU市民が仮想空間を適切に利用するためのオンラインリソースを提供。
  • 仏国: 国家戦略の策定、ヘイトスピーチやサイバー暴力の防止を目的とした報告書「メタバースにおける尊重と多様性の構築」発表、メタバースの相互運用性を推進するための標準化委員会設立、国家投資計画「France 2030」による没入型文化・技術プロジェクト公募など。
  • 英国: オンライン安全法がメタバースにも適用可能とされ、デジタル規制協力フォーラム(DRCF)がメタバースがもたらす課題への対応に取り組んでいます。
  • 豪州: 「2021年オンライン安全法」がメタバースにも適用可能とされ、eSafetyコミッショナーが没入型技術に関するポジションペーパーや、こどもの没入型技術利用に関するガイダンスを発表。特にこどもの安全確保を目的とした基準案が公表され、発行されています。
  • 中国: 工業情報化部が「メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画(2023-2025年)」を発表。上海市や北京市も独自の行動計画やプロジェクトを進めています。
  • 韓国: 世界初のメタバース産業振興法である「仮想融合産業振興法」を成立させ、同年8月に施行。「メタバース自律規制委員会」も発足し、取引、知的財産、利用者保護などのガイドラインを策定しています。

7.3. 国際組織の動向

  • MSF(メタバース・スタンダード・フォーラム): メタバースの相互運用性に関する標準策定を支援。日本のVRMコンソーシアムがワーキンググループの共同議長に選出され、VRMの国際標準化に向けた協力が進められています。
  • ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門): 「メタバースに関するフォーカスグループ(FG-MV)」を設置し、52件の成果文書を採択。メタバースの標準化に関する議論が進められています。
  • OECD(経済協力開発機構): GFTech(Global Forum on Technology)の下に没入型技術のフォーカスグループを設置。日本の「メタバースの原則」も報告書で言及され、人間中心で民主的価値に基づく没入型技術の発展・利用の前提となる価値が整理されました。
  • IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム): メタバースにおけるこどもの権利と安全、Web4.0と仮想世界のガバナンスに関するワークショップやセッションが開催されました。
  • WEF(世界経済フォーラム): 新たなイニシアチブ「メタバースの定義と構築」を発表し、ガバナンスと経済的・社会的価値の創造に焦点を当てています。「責任あるメタバース成熟度モデル」も発表し、メタバースプラットフォームの責任ある運用を評価する枠組みを提示しています。

7.4. 海外のメタバースに係るソフトロー

  • 韓国「メタバース倫理原則」: 2022年11月、科学技術情報通信部が公表。法的拘束力を持たない自律規範で、「誠実な自我」「安全な経験」「持続可能な繁栄」の3大志向価値と、真正性、自律性、互恵性、プライバシー尊重、公平性、個人情報保護、包括性、未来への責任の8大実践原則を掲げています。
  • EU「EU市民原則」: 欧州市民パネルでの提言に基づき、「公正で望ましい仮想世界のための8つの価値観と原則」が策定されました。選択の自由、持続可能性、人間中心、健康、教育・リテラシー、安全性・セキュリティ、透明性、包括性の8項目です。
  • UAE「9つの自主規制原則」: 「責任あるメタバース自己規制フレームワーク」白書で提起。アクセスへの相互運用性、プライバシーバイデザイン・バイデフォルト、設計による持続可能性、互恵性、信頼のための透明性、公平性・平等性・包括性、多様性へのコミットメント、アカウンタビリティ、セーフティバイデザイン・善行の9項目です。
  • ドイツテレコム「メタバースの倫理指針」: 「保護」「セキュリティ」「責任」の3カテゴリーにまたがる9つの指針を掲げ、人間中心のメタバースを支えるとしています。
  • Meta「4つの基本的価値」: 経済的機会、プライバシー、安全性・公正性、公平性・包括性の4項目を、責任あるメタバース構築における主要な関心領域としています。
  • GatherVerse「メタバースの8基準」: 人間第一、アクセシビリティ、教育、平等性、コミュニティ開発、安全性・プライバシー、ウェルネス、倫理の8つのコア原則を定めています。
  • RMA「倫理メタバース原則」: 「安全で責任あるメタバース」実現のための11項目からなる倫理基盤を提唱しています。

8. 日本の「メタバースの原則(第2.0版)」の検討

総務省は2024年10月に「メタバースの原則(第1.0版)」を公表しましたが、市場拡大、ユーザー増加、サービス多様化、AR・MRメタバースへの議論対象拡大などを踏まえ、今回の報告書で「メタバースの原則(第2.0版)」としてメジャーアップデートを行いました。

8.1. 原則改定の視点

  • 「第1.0版」策定時からの状況変化
  • VRメタバースからAR・MRメタバースへの議論対象拡大
  • コミュニケーション・エンタメ目的から多目的への議論対象拡大
  • デバイスの進展
  • 国外のソフトローとの比較

8.2. 原則の構成と主な変更点

「メタバースの原則(第2.0版)」は、民主的価値の実現を目的とし、「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」と「メタバースの信頼性向上に関する原則」の2つの柱で構成されます。原則の対象は「メタバース関連サービス提供者」が主ですが、「ユーザー」「コンテンツの創作や提供を行う者(クリエイターを含む)」「ルール整備に関わる者」「ユーザーのリテラシー向上に関わる者」「デバイスを提供する者」を含む全てのステークホルダーが参照することを期待されています。

主な変更点(下線部が追加・修正箇所):

  • 前文: 「物理空間と仮想空間がこれまで以上に融合した結果として、メタバース上での出来事や価値観が仮想空間のみならず物理空間にも影響を与え、両空間の民主的価値を損なう可能性も想定される。」という記述が追加され、AR・MRメタバースの進展に伴う影響への言及が強化されました。
  • 原則の対象: 「デバイスを提供する者」が参照対象として明示されました。

「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」における変更点:

  • オープン性・イノベーション:
  • 「自由な事業展開によるイノベーション促進、多種多様なユースケースの創出」の解説に、「メタバースの利用が人々の身体、感情、行動等に正負両面の影響を与える可能性があることを認識し、その提供するメタバースサービスがユーザの身体的・精神的な健康の増進に寄与するものとなるよう開発・運営等に努めることが期待される。」という記述が追加され、ウェルビーイングへの配慮が明記されました。
  • 「知的財産権等の適正な保護」の解説に、「技術・ノウハウなどユーザから取得するデータについて競争上の理由等から他者に秘匿すべきものがあることに留意するほか、利用規約やコミュニティガイドライン等を通じて、知的財産権をはじめとする諸権利の適正な保護の重要性についてユーザへの浸透を図るとともに、例えば、二次利用の可否をはじめ、UGCの創作・利用に関するルール等についてこれらの文書に明示することが期待される。」と、技術・ノウハウ保護とUGC創作・利用に関するルール明示が追加されました。

「メタバースの信頼性向上に関する原則」における変更点:

  • 透明性・説明性:
    • 「サービス利用時の保存データ(期間、内容等)及びメタバース関連サービス提供者が利用するデータの明示並びにそれらのユーザへの情報提供」の解説に、「取得・保存したデータの管理方法や管理体制についても、可能な範囲で明示することが期待される。」が追加されました。
    • 「提供するメタバースの特性の説明」が新たに項目として追加され、ユーザー属性の多様化や異なるサービス・ワールドでのルール・文脈の違いを踏まえた説明の必要性が明記されました。
    • 「真正性を確認するための措置」が新たに項目として追加され、AIアバターと人間アバターの区別や本人確認の必要性など、空間内の行動主体の真正性担保に関する措置が明記されました。
    • 「物理空間に対して仮想的に付加又は削除する情報の選択、表示に関する措置」が新たに項目として追加され、AR・MRメタバースにおける情報の付加・削除がもたらす「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」のリスク、共通認識の喪失といった課題への対処が明記されました。
    • 「ユーザの安全確保のための措置」が新たに項目として追加され、屋外利用や怪我・事故のリスクが予測される場合に、機能制限や必要な措置を講じること、それらをユーザーに説明することが明記されました。
  • アカウンタビリティ:
    • 「事前のユーザ同士をはじめとする関係者間トラブル防止の仕組みづくりや事後の不利益を被ったユーザの救済のための取組」の解説に、「メタバースサービス内のエフェクトやイベントなどの体験コンテンツについて、その結果起こった事象に対しての責任の所在を関係者間であらかじめ明確にしておくこと。」が追加されました。
  • プライバシー:
    • 「ユーザの行動履歴の適正な取扱い」の解説に、「取得する行動履歴は、利用に必要な範囲にとどめることとし、その保存についても、必要な期間にとどめること。」と、取得・保存期間の制限が明確化されました。
    • 「サービス外の周囲の人物のプライバシーへの配慮」が新たに項目として追加され、ユーザーがサービスを利用していない周囲の人物のプライバシーへの配慮を促すことが明記されました。
  • セキュリティ:
    • 「メタバースのシステムのセキュリティ確保(外部からの不正アクセスへの対処等)」の解説に、「登録時の本人確認システムを含む必要な措置の導入・強化に向けた検討を行うこと。」「ログイン時の認証システムの導入・強化に向けた検討を行うこと。」が追加されました。

9. 今後の課題

「安心・安全なメタバースの実現」と「安心・安全なメタバースの更なる利活用」の2つの側面から、以下の課題が挙げられています。

9.1. 安心・安全なメタバースの実現に係る課題

  • 「メタバースの原則」をベースにした国内外での共通認識の醸成: 「メタバースの原則」を具体的に推進し、OECDなど国際的な議論に貢献するとともに、国内への普及・浸透を促進すること。
  • 望ましい利用の在り方についての検討: 「VR酔い」や依存などのネガティブな影響への対策を模索し、望ましい利用の在り方について政府内の他の取り組みと連携しながら検討すること。
  • 生体情報等を含むマルチモーダルなデータの取扱いに係る検討: XRデバイスから得られるマルチモーダルかつ機微なデータの、ユーザーの安心・安全を確保した取得・分析・活用方法について、メタバース関連サービス提供者だけでなく、デバイスメーカーやビジネスユーザーの取り組み実態も把握し、活用可能な既存技術や社会実装への道筋を検討すること。
  • 物理空間に対して仮想的に付加又は削除する情報の選択、表示に関する検討: AR・MRメタバースにおける情報の付加・削除がもたらす安全確保への支障や、共通認識の喪失といったリスクに対し、ユーザーの利便性を維持しつつ効果的な方策をマルチステークホルダーで議論・検討すること。
  • ユーザーのリテラシー向上のための支援: AIや没入型技術の発展に伴う情報の真偽見極めの難しさに対し、システム側での支援とユーザーに求められる理解・判断のバランスを取った取り組み(プライバシー・バイ・デザイン、フールプルーフ、ナッジなど)をマルチステークホルダーで議論・検討すること。
  • マルチステークホルダーによる議論の場の構築: 複雑化する課題に対し、多様なステークホルダーが知見を共有し、「メタバースの原則」の改定要否や方向性について多角的・集中的に議論する場の構築が期待されます。

9.2. 安心・安全なメタバースの更なる利活用に係る課題

  • 「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」の普及、更新: 総務省による手引きをメタバースの潜在ユーザーに周知・普及し、必要に応じて内容を更新、充実化すること。
  • 相互運用性の確保に係る検討: 空間レイヤー提供者における外部接続性の確保、XRデバイスから収集されるデータや周囲の環境に関するデータの囲い込み、利益配分の公平性などについて、産業構造を俯瞰的に把握・分析し、議論・検討すること。

10. おわりに:仮想空間と物理空間の融合の進展

本研究会は、VRメタバースからAR・MRメタバースへと議論の対象を広げ、仮想空間と物理空間の相互作用や融合が現実味を帯びてきたことを強く意識しました。

  • 大丸松坂屋百貨店の事例: 「(勝手に)ヨコスカツアー」や「バーチャルフォトグラフィーの展示会」は、仮想空間と物理空間が相互に作用し、両方が変容していく可能性を示しています。
  • STYLYの事例: 空間コンピューティングによって空間の中に様々な情報を表示できるようになることで、「身にまとう空間」という新たなメディアが誕生し、生活が大きく変化する可能性を示唆しています。

高性能で比較的低価格なシースルーグラスの登場により、今後AR・MRメタバースの進展は加速すると考えられます。一方で、コミュニケーションを主目的とするVRメタバースも、遠隔交流や現実からの解放の手段としてニーズが継続すると見込まれ、高性能で安価なHMDの普及が鍵となります。情報通信政策を研究する上で、メタバース全般の動向を引き続き追っていくことの重要性が強調されています。

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